No.42 Woodstics LP-Type Proto
name: Tropical
No.42 Woodstics LP-Type Proto
name: Tropical
ボクのオーダーによって作られた Woodstics の1本モノ、その名も「Tropical」!!
「なんだこれ」って思われることでしょうが、ボクにとってこのルックスは「The ストライクゾーン ど真ん中」だと言わざるを得ません(キリッ
しかしこいつは完成するまでに時間がかかりました。相当な遠回りをしたんです。
ギター本人もこういう将来を想像していたか、この着地点を望んでいたか、こうなったいまの自分の姿で幸せか……それは本人に訊かなきゃわからないですよね。ギターは話せないので答えはわかりません……ってオレのバカバカ!ギターは雄弁ですよ!!!めちゃめちゃよく話しますよねぇ!?はーっ、あっぶね!危うくギタリストらしからぬことを言うところでしたw っつーことで、いろんな答えはこいつ本人に訊けばいいわけですよ。じゃあなんとなく訊いてみましょっか??おーい、いまどんな感じ!?答えてやるから弾いてみろって?うーん、生弾きだと、特に鳴るとかそういうわけじゃないからあんま幸せそうには……え?ソリッドギターはみんなそうだと?みんなそういう運命を背負って生きてるんだと??いいからアンプに繋いでみろと??その前におクスリの時間だと???
何度か説明したことありますが、改めて。「Woodstics」とは、ESP 内で展開する「横山健が監修/プロデュース」のブランドで、2017年に始動しています。生産は ESP なので、基本的にと言いますか、ギターの品質は完全に ESP のものです。
これは近年の傾向なんですが……ESP がトラディショナルなタイプのギターをほとんど作らなくなってきました。例えば「レスポールタイプ」だとか、「テレタイプ」だとか……もう ESP のロゴが付いたギター、レギュラーラインナップではほとんど作っていないですね。ESP 内のブランドである、ご存知 Navigator がその路線は引き継いでいますが、なんせ Navigator は生産本数が異様に少ない。ほとんど流通していなく、オーダーブランド化しているようにも見えます。そこで……ボクが Woodstics で作りたいギターは、トラディショナルなタイプのものが多い。弾いてくれるギタリスト達も、仕様は個性的ですが、基本路線がトラディショナルなタイプを望む傾向にあります。おっと……そうなると Woodstics の存在価値もそこにあるのではないか、と!なんだかそんなようなことを最近感じております!盛り上げていくっす!!
上記したように、ブランドのスタートは2017年。翌年の2018年頃、ボクは Woodstics を弾いてくれそうなギタリストを探していました。これね……なかなか難しいんですよ。ESP のギタリストを奪うわけにもいきません。それで大体のパンク/ラウド系のギタリストは、もう ESP を含めたどこかのブランドとエンドース契約してしまっているわけです。それか「自分で買ったギターを弾きたい」というタイプか。そういった人に「Woodstics ってオレがやってるブランドのギター、興味ある?」と訊いても、「現状満足してるんでいいです」「今までのギター弾けなくなっちゃうってことはありますか?そうなりそうでイヤだなぁ」と言われてフィニッシュ(ぴえん)
この点に言及しておきますが、現状 Woodstics には特に契約などはありません。「こっそりおもしろいもん作って弾こうぜ!」という気持ちが一番強いです。もちろんライブ等で使ってもらうことを前提にはしますが、スタンスを言語化すると「ライブ等で弾いてくれれば嬉しいよ!」ということになるでしょうか。つまり縛りはありません。もちろんブランドがもっともっと大きくなって、ある程度の影響力やビジネス的責任のようなものが出てきたら「専属契約」なども出てくるでしょう。それはある意味当然といいますか。しかし現状は ESP の中でひっそりとやらせてもらっているだけなので、まだまだそんなレベルではありません。
興味があるギタリストはぜひご一報を!
話を元に戻しましょう。そんな時に Country Yard というバンドが Pizza Of Death Records から音源をリリースする運びとなりまして。ギタリストが2人いるのですが、ミーティングの際にいつも同席するのが Yu-Ki Miyamoto というギタリスト。彼は「Gibson Les Paul Custom ’54 の 72年製リイシュー」を弾いていたんです。それが少しメゲてきた、と。ほう!それではそれ、バックアップを Woodstics で作っちゃう!?となったんですね!これがバンドとレーベルがリリースに向けて話し合いを始めた頃のことなので、おそらく2018年末から2019年初旬の話であろうと思います。
その「Gibson Les Paul Custom ’54」、主な特徴としては「1P のマホガニーボディー&ネック」であること、それにピックアップがフロントに「アルニコV」、リアに「P-90」を採用してあり、見た目にもサウンドにも大きなインパクトとなっています。
それで何を思ったか……ボクは Yu-Ki の分と合わせて自分の分もオーダーしてみたんです。「1本この仕様(Les Paul Custom ’54 スタイル)のギターを持っていてもいいよなぁ」そんな感じだったと思います。当時工場の生産ラインがいっぱいいっぱいで、なかなか Woodstics にまで手が回らない状況でした。なので「ボクの分はまだ先でいいから、とにかく Yu-Ki の方を早く仕上げてあげて!」と言っていました。
アボガドグリーンをまとい、さらにエイジド加工も施された Yu-Ki の分は、話し合いから1年くらいたった2020年に本人の手に渡りました。それから今に至るまでライブで弾いてくれています。
さてそれではボクの方のはどうなったのでしょう??数ヶ月後に訊ねると「木工は上がってきているよ」とのこと。つまりボディーとネックは完成して、それらが木地のまま接着された状態です。これから色決めをしたり、パーツの精査をしたりして完成に向かう、と。
ちなみにこの時点ですでに2021年になっていたと思います。ボクの気持ちを率直に申し上げました。
「ボクねぇ……Custom ’54 仕様のギター、要らなくなっちゃったなーーー」
まぁ、なんと移り気でワガママなボクちゃんなんでしょうwwwwwwwwwwww しかし最初のオーダー時から2~3年待ってみて、冷静に「こりゃ弾かないなぁ」と思ったんですよwww その間にたくさんライブやレコーディングをしましたが「いまこの場面で Custom ’54 仕様のギターがあれば……」って一度も思わなかったですもん。コレクション的に持っていてもおもしろいけど、そんな余裕はありません(気持ちにも置き場所にもw)
それでは木工まで仕上がったこいつ、どうしましょうかねぇ……。実は心変わりしている間に、強烈な新ヴィジョンを思いついてしまっていたんです!!
ESP は「この世に1本だけのギターをオーダーできる」お店として名を上げました(もちろん今でもそうです)。つまりギターそのものクオリティーは言わずもがな、ペイントの技術が世界最高峰のレベルなんです。
ボクはギトギトにトロピカルな絵の画像をたくさんサンプルとして送りました。全部「オウム」が描いてあります。オウム、特別思い入れがあるわけではないんですけどね。トロピカルな絵の主役としてはオウムかフラミンゴが相応しい、という勝手な思い込みです。 そして肝心なところですが「ハードウェアなんかも ’54 タイプみたいな仕様ではなく、ボクがいつも使っているような仕様がいいです」と横山、突然のお気持ちを表明してみましたw
これに困ったのは担当の ESP 丹正くん。
超えるべき主な問題は二点。一つ目は、木工の問題。ボディーは ’54 スタイルとして加工されていますよね。’54 スタイルのピックアップの載せ方と、ボクが心変わりして「これを載せたい」と言ったピックアップの搭載の仕方が違うんです。あってほしい部分の木が、’54 スタイルに合わせて削られているわけです。つまり削ったところをわざわざ別の木で埋めないといけない。これは……まぁやってしまえば済むことなんですが、「めんどくせぇ!!」だったでしょうね(さーせんショボーン) 完成時の「見た目のちょっとした違和感」なんかも発生する予測がたちますし、本来あまり歓迎できない加工でしょう(さーせんショボーンショボーン)
二つ目、こちらの方が大問題でした。グラフィックをどうするか、ですね。ボクが丹正くんに送ったサンプル画像、全てネットでの拾い物です。つまりどれか一点をそのまんま採用するわけにはいきません。著作権上問題がありますからね。つまり逆説的に言うと「一点物の絵を描く」しかないわけです。「しかないわけです」とかどの口が言うのか、と(ショボボーーン) 先述したように、ESP は高度なグラフィック技術でも知られています。丹正くんは ESP の展示用モデルなどを手掛ける重鎮、湯沢さんに話を持っていったのでした!
さっそくミーティングをセッティングしてもらい、ESP の所沢工場へ。初めてお会いした湯沢さんは「ミュージシャンの方にわざわざ来ていただいて、直接アイデアをぶつけていただいて、非常にありがたいことです」と言ってくださいました。ボクのアイデア……人によっては一笑に付されてもおかしくないものを、真剣に聞いてくださって、こちらこそ感謝の限りです。
しかしながら物理的に仕事が詰まっているため、取り掛かるのは数ヶ月先になってしまい、そこから完成までにも数ヶ月を要する、とのこと。全然構いません!もう何年でも待ちます!!
それから何度かミーティングを繰り返し……おそらく1年以上の時間はかかったでしょうか、ついに完成したのは2023年1月!!ザッと計算すると、完成までに丸4年!!
しかし完成したからにはすぐ弾きますw その2ヶ月後に開催された「Feel The Vibes ツアー」でデビューしました。同年5月に開催した初の日比谷野外音楽堂でのライブ「Dead At Mega City」でも大活躍しました。
そんな風に、紆余曲折ありながらもとんでもないインパクトを持って完成したこのギター……ちょい気になるのは、ESP の丹正くんはこの経緯をどういう思いで見ていたのでしょうか(ガクブル……)
想像するのは怖いので、実際に訊いてみましょう、と!!丹正くんにメールでインタビューしてみました!
健: 元々 ’54カスタムスタイルとしてオーダーされたものが、突然「気が変わって普通のカスタムスタイルにしたい」と言われました。率直にどう思いました?
丹: 木工加工が出来上がった物を改造するのに抵抗はありました。しかし、健くんは改造していても「使えるギター」を欲しがり、オリジナルがどうとか気にしないのを思い出しました。
健: ブリブリにトロピカルな絵のサンプルがバンバン送られてきました。どう思いました?
丹: アロハシリーズの延長上にあり更に上を行くアイデアで、これは時間がかかるなと。
健: 結構冷静だったんですね……特に大変だった点はありますか?
丹: 何種類ものサンプルのデザインをどの様にオリジナルのデザインに落とし込むか、グラフィック担当(湯沢さん)と健くんと何度も打ち合わせをした所ですかね。
健: 出来上がったギターを見て、率直にどう思いました?
丹: グラフィックに1年以上かかったプロジェクトだったのもあり、塗装上がりを初めて見た時にエアーブラシとクラッキングとのバランスが良い感じにまとまってるなと。
健: やはりそのあたりも冷静に見てるんですね……こういった突飛なギターをオーダーするのは横山健のカラーのひとつだとは思いますが、お付き合いさせられる方は大変だと思います。その点について一言いただけますか?
丹: 30年以上もの付き合いですので、突飛な事とは思わない様になってしまいました。
健: そういうことなんでしょうねw 慌てた様子はほぼありませんね!ギタリストはどういう人種か、というか、横山健はどういうやつか、30年の付き合いと経験で完全に把握していますね!!それでは最後に、横山が Woodstics を使ってめちゃくちゃやってるなぁとは思いませんか?
丹: Woodsticsギターのプロデューサーとして、Woodsticsを広めてくれるなら面白いかなと。ミュージシャンから出て来るアイデアは制作側としても参考になります。
丹正くん、ありがとうございました。さすが横山と30年の付き合い。ボク自身がむちゃくちゃだなぁと思っていることも、丹正くんからすると「いや、健くんはずっとそんな感じよ?」と言うことですよねwwww ありがたいことです。
ギターの詳細ですがは、ボクのごく標準的なものと言って差し支えないでしょう。
ボディー/ネックはマホガニー、指板はエボニー。ピックアップはリアが Seymore Duncan の SH-4、フロントがアンティクイッティー。ストップテイルピースに TOM ブリッジ。ペグはゴトー製のロック式を採用。
ヘッド裏に「E0900221」とシリアルナンバーが入っています。
言うまでもないですが……このギターの推しポイントは圧倒的にそのグラフィックですよね。写真をご覧になって湯沢さんの意匠をバッチリ感じてください。エアブラシによる一点物の「作品」ですよね。この世界観、もう横山のドストライクなんです。弾かなくてもいいです、飾っておければボクの心は満たされ、いや、弾きますけどね。
ヘッドの花柄も激シブじゃないですか!?色合いのせいか若干 Woodstics のロゴが沈んでみえますが、もうそんなの問題じゃないでしょう。ボティーのベース色が鮮やかな青から薄いピンクのグラデーションであることに対して、ヘッドのベース色はしっかり黒になっています。派手なんだけどやはり締まりがあるなぁ、と。そんな気がするのはボクだけでしょうか?
ボディーとネックの裏のカラー、ここ案外争点でした。ボクはギトギトにすることしか考えていなかったので、ボディー裏はやはり絵を描いてもらうか、ボディーのベース色に準じたグラデーションにしてもらおうと考えていました。ところが湯沢さんから「ここは70年代のギターのボディーバックにあるような色にしたほうが良いのでは」と進言いただきました。ちょい地味になるんじゃないか、と思っていたのですが、それで正解でした。マホガニーのきれいな木目がしっかり出て、「ギターです!!」感が出ました。もし全体をギトギトな色にしていたら、下手すると「おもちゃ感」が出ていたかもしれません。さすが湯沢さん。
ギター全体にクラックが入っていますね。これも湯沢さんの手によるエイジド加工です。決してやりすぎず、近くで見ると新品の風合いではないものを感じる。そういったギリギリの良い線に落とし込んでくれました。
あー、ほんとこいつ大好き!周りの人たちを悩ませ、遠回りをして、時間がかかりましたが、その分大切な1本になりました。
それだけ気に入っているわりには、あまりライブに登場しないんですよね……日比谷野音の Dead At Mega City 以来あまり外で弾いてやっていない気がします。
それには理由があって……実はこいつ、結構重いんですwwwwwww 5kg あるとは言いませんが、それに近い重さだと思います。ギターって5kgあったらかーなり重いんですよ。ボクは若い頃、いろんなギタリスト達が「ギターが重くて……」「肩が痛くなるんだよね……」という類の嘆きの意味がわかりませんでした。ボク自身もかなり重いギターを背負ってたんですが、重さなんか気にしたことがなかったんですよ。でももう……いま55才なんですよ。すこーし気になってしまうんですよね……。
実は、ギターなんてステージに持って出れば、その重さなんか感じません。ボクはね?そんなの関係ねぇっす。……しかし……ツアーにどいつを持っていこうっていう選考の際にですね…….「こいつ重てぇしな」とね……少しだけ考えてしまうんですよね(ショボボボーーーン)
まあまあ!!また「ここ!」ってところでこいつを抱えて出ていって「皆さんの視線釘付け」にしてやりますよw
2025/1/13
